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いまブロックチェーンで知っておきたい10のこと【2019年9月編】

2017年秋から約2年の間、インターネットに次ぐ革命と言われている「ブロックチェーン」に身を投じて分かったこと、業界関係なくぜひ知っておきたいことをまとめました。いまブロックチェーン技術を使って何が起こっていて、なぜ熱狂的な人々がいるのかが感じ取っていただけたら嬉しいです。

 

 

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1. 4年で時価総額2兆円の経済圏

ブロックチェーンと仮想通貨は密接なものではありますが、ブロックチェーンの使いみちは仮想通貨だけにとどまりません。とはいえ、ビットコインをはじめ仮想通貨は「株やFXのようなもの」として、取引所で毎日価格が上がった下がったで、投機やギャンブルのようなイメージが付いてしまっているかと思います。

しかしながら、多くの仮想通貨には、円やドル、株やFXのような法定通貨にはない機能が備わっており、その中でもっとも有名なのが「イーサリアム」です。「イーサリアム」をざっくり説明すると、「ブロックチェーン上にプログラムをおいて実行できる」機能を持っています。当時19歳のロシアの天才エンジニア・ヴィタリックが構想し、ベータ版を公開したのが2015年。それからわずか4年間で時価総額がなんと2兆円の規模(2019年9月時点)まで成長させてしまったのです。単純比較はできませんが、1,000億円でユニコーンと呼ばれるスタートアップ企業と比較しても、この期間でこの規模感まで成長したことは驚異的でしょう。



2. 資金調達に大革命「株<<<トークン」

さまざまな事業やプロジェクトは資金調達=お金集めから始まることがほとんどです。これまでの歴史上、その調達方法は、基本的には「株式(エクイティ)」「デッド(借入)」のふたつしかありませんでした。特に、株による調達は、17世紀のはじめに株式会社である東インド会社が成立させた方式で、400年以上も続く長い歴史の積み重ねで、とても良くできた仕組みに磨かれてきました。

そこに突如として現れたのが、ブロックチェーンを使った「トークン」による調達だった、というわけです。「トークンによる調達?」といってもイメージが湧きづらいかと思いますので、ざっくり説明すると、「ブロックチェーン上に誰も改ざんできない株券のようなものを誰でも発行できるようになり、世界中の誰でも売買が可能になってしまった」ということです。しかも、これは国家や銀行などの大きな力や信用がなしで成立してしまったのです。この調達部分を称して「ICO」と呼ばれています。

ブロックチェーン業界においては、2017年以降、株式による調達額よりもトークンによる調達額が上回ってしまい、資本主義社会の「投資家」からのお金の流れに大変革が起こってしまいました。実際に法定通貨に交換できる金銭的価値を帯びるトークンが価値をもったため、人はその『お金』によって事業やプロジェクトをダイナミックに進めることができ、さまざまなブロックチェーン系のサービスが生まれ、社会実装が一段と進むことになったのです。

ちなみに、このトークンの発行や売買をかんたんに行うことができる仕組みを提供しているのが、「イーサリアム」なのです。

3. NY証券取引所を超える取引所?

説明に入る前に、ここで株式による資金調達の仕組みを少しだけおさらいしてみましょう。

例えば、スタートアップに投資する投資家は、まだ時価総額が低いうちに円やドルを出資し、その代わりに会社の未公開株をもらいうけます。その会社が順調に成長して東証などに上場すると、出資した分の株を市場に売ることができます。人気のある銘柄であれば上場すると時価総額が跳ね上がるので、未公開株の時点で出資していた投資家はその差額分で利益を出すことができるわけです。

株式の歴史は長く、当時はインターネットもありませんから、各国の金融機関・証券会社などのローカルの範囲で売買ができるようになっていて、基本的には国や地域に根ざした仕組みになっています。

ここで突然、トークンによる資金調達が登場すると、これまで一部のエンジェル投資家やVC=ベンチャーキャピタルだけが購入できていた未公開株を、インターネットとブロックチェーンの繋がりによって、”世界中の誰もが自由に未公開株のようなトークンを売買できてしまう”、ことになったのです。これで世界中のお金の流れが変わってしまいました。

日本で有名な仮想通貨取引所といえば、コインチェックやbitFlyerなどがありますが、その時価総額や業績にびっくりした人も多かったと思います。その世界版というべき存在が「バイナンス」という取引所です。この取引所は、人類史上最速で成長している会社とも呼ばれ、わずか2年でドイツ銀行以上の収益、NY証券取引所に肉薄するという驚異的な成長を見せているのです。このペースで成長を続けると、どこかではNY証券取引所さえも超えるという話も出ているくらい、世界中の人々によりトークンの売買がさかんに行われているのです。

さきほど、株式による資金調達のあと東証への上場という話をしました。トークンの場合の上場先は・・・そう、こうした仮想通貨取引所になるわけです。上場にはさまざまな目的がありますが、大きな目的のひとつは、市場からの資金調達をしやすくなることです。もし、世界中にオープンな「バイナンス」に上場するとしたら、市場からの資金調達もよりダイナミックなものになる可能性が高いのです。

4. 安倍総理やTOYOTA/ソニーも前向き

とはいえ、ブロックチェーンや仮想通貨は事件ばかり起こっていて、リスクの塊、あやしいし近づきたくない、という声も多いことも事実です。歴史が浅い分、まだ技術的にも法律的にも定まっていないこともあり、「失敗」もたくさん起こっています。

しかしながら、インターネットも出てきた当初も、こんな回線が重たいものは使い物にならない、違法音楽のダウンロードで使うくらいなもんだろう、これで通販をする時代なんてこない、なんて散々な言われようだったのです。インターネットもブロックチェーンも技術としては有用性が認められているため、そうした一定の失敗を繰り返しながら、実用化に向けて前に進むべきタイミングに来ています。インターネットでAmazonが本を売り出したのは1994年でした。Google創業は1998年、Facebookも2004年です。いまや生活に欠かせないほどの影響力を持ち出したのは、ちょっと早いくらいのタイミングでサービスを提供していたのですね。

そうした状況を鑑みて、2018年11月26日の参議院・予算委員会にて、安倍総理はブロックチェーン技術について、「暗号通貨のほか、金融に限らず様々な分野において活用の可能性がある。」と述べ、企業の生産性向上や、様々なサービスの利便性・安全性向上に繋がると発言しました。経済産業省が行うJ-LOD(日本発のコンテンツ等の海外展開を促進するための補助金制度)も2019年から急遽、ブロックチェーン開発費用も対象になり、手前味噌ながら私たちが進めているファンの力で翻訳する「Tokyo Honyaku Quest」(その舞台裏のブロク記事)も採択されました。

また、さきの「イーサリアム」はすでにTOYOTA/ソニー/マイクロソフトなど大手企業も実証実験に参画しており、まさにいまどの企業であっても取り組みを開始するタイミングであると示唆しているのです。


5. 改ざんできない自動執行プログラム

冒頭で、「イーサリアム」の機能として、「ブロックチェーン上にプログラムをおいて実行できる」と書きました。これはすなわち、そこに乗せたプログラム=ルールは改ざんできないし、システムが自動的に執行されることを意味します。これらの総称を『スマートコントラクト』と呼びます。

この仕組を日本の年金で説明すると、日本政府はかつて「若いうちに毎月一定額を払うと60歳になったら毎月一定額のお金をもらえます」と宣言して年金制度をはじめました。ところが、予定よりも少子化が加速したり年金の運用がうまくいかなくなると、突然、「60歳ではなく65歳から支払うことにします」と”改ざん”してしまったのです。『スマートコントラクト』であれば、こうした中央集権的な存在がおらず、勝手に変更することはできないですし、お金の振込さえ自動的に執行される仕組みにできるため、関わるみんなが安心してシステムに任せることができるのです。

さて、「イーサリアム」でこの仕組みを活用した一大プロジェクトがはじまります。その名は「The DAO」。ひとことで説明すると、「世界中のイーサリアム保有者の資金を1箇所に集めてファンドを作り、運用のしかたを投資した人たちの投票によって決めよう」という仕組みです。通常、ファンド運用は、ファンドマネージャーがベンチャー企業を選定し、評価をし、交渉し、どれくらいの投資をするかを”中央集権的”に決めていきます(厳密には資金の出し元のLPにも配慮・説明などはありますが割愛します)。

「The DAO」では、これらの集金・投票・出資・リターンの分配までをすべてスマートコントラクト上で実現することで、当時の金額で160億円分の「イーサリアム」を集めることに成功するのです。そして、そのファンド資金をもとに、さまざまなプロジェクトや企業への投資が投票に基づき自動執行され、そのリターンをトークンを通じて世界中の出資者へリターンを自動的に分配される仕組みが動き出したのです。

・・・残念ながらこのシステムには重大なバグがありました。そこを突かれ大規模な流出事件が起こってしまい「The DAO」は頓挫します。ですが、この思想や仕組みはきっとさまざまな業界やコミュニティで利用できるはずで、こうした事例を糧にして次なる挑戦が行われようとしています。


6. 広告に頼らないメディアが成立

インターネット上では無料で使えるサービスがいくつもあります。特に、ニュースメディアやSNSなどは、無料で気軽に利用できて、たくさんのユーザーを集めて人気を出していきます。こうしたサービスはどこで運営を成り立たせているかというと、動画やバナーなどの「広告」の仕組みです。商品やサービスを販売したい会社=広告主が、こうしたメディアを通じて自社の商品やサービスを売り込み、その広告枠を提供することで、広告費用をメディアをもらいうけます。

時代が進むに連れ、広告の効果はメディアによって差が出てくることが分かってきました。特に、ユーザーにマッチした広告を出せるかどうか、ターゲティングやセグメンテーションが大事になってくるのです。これらの精度をあげるためには、メディアにアクセスしている人たちのユーザー情報をたくさん集めて行く必要が出てきました。そうして、さまざまなインターネット企業が個人情報のデータを共通化したり、中には個人情報の販売ビジネスまではじまっていくのです。

こうして個人情報を集めてビジネスを最大化したい企業と、知らずないうちに個人情報を渡してしまっている利用者の間に大きな溝ができてしまいました。

そんな中、ブロックチェーンを活用することで、広告に頼らないメディアが作れるのではないか、それを実践し成立しているメディアが「Steemit」です。このサービスは利用者が記事を書くと、法定通貨と交換可能なトークンをもらえ、読者から送らえる「いいね」にもトークンが付与できます。その日のホット記事になると、1記事で1万円相当になるので、「Steemit」で暮らせる人たちが出てきており、元来のメディアなら支払うべき、ライターやエディターへの費用がほとんどかからず成り立ってしまっているのです。さらに、ここでもらえるトークンは価値が変動するストックオプションのような性質も帯びているため、「Steemit」のサービスが大きなればなるほど、その資産価値が高まるため、ライターやエディターひいては読者までもが「Steemit」の成功を願い、同じ方向を向いてサービスが運営されているのです。

これまで「広告」に頼らないといけなかったインターネットサービスの大半が、価値をなめらかに移転できるブロックチェーンを活用することで、「広告」に頼らないメディア運営の選択肢が出てきたわけです。動画配信にしてもSNSにしても、冒頭やタイムラインに広告が流れるのはユーザー体験としてはデメリットになっており、これらが解決する事例としても注目されています。


7. デジタルなのに世界でひとつを証明

デジタルの世界の素晴らしい特徴のひとつは、完全なコピーがとれることでした。しかし、完全なコピーがとれることで、デジタル上で生まれた制作物はコピーし放題のため、実質的な価値がゼロに近づいていってしまうことになります。

ところが、ブロックチェーン技術の「NFT」という技術を使うと、デジタルデータを「マスター」と「レプリカ」とを区別して、世界でひとつを証明することができるようになったのです。すると、ビットコイン(のローマ字+数値の羅列)が100万円相当の価値を持ったように、「マスター」のデジタルデータはアート的価値を持つようになりました。

その事例がアート領域では「Master Works」や「スタートバーン」などではじまり、コンテンツ領域では、あの進撃の巨人のデジタルデータを公式的に販売した「Anique」というサービスです。いわばデジタル資産ともいうべき新しい概念です。この仕組はソーシャルゲームのカードゲームなどでも多数の事例が出てきていて、ブロックチェーン技術の利用用途の中でも大本命といわれています。

8. 利用者もステークホルダーとなることで良い社会へ

これまでの株式会社は仕組み上、株主と消費者の目的が不一致になるケースが起こりやすく、必ずしもみんながハッピーになる方向の意思決定がされないことが多々あります。

飲食店を例に説明しましょう。短期的リターンを求める株主は、長期的には健康被害が出ると分かっている材料や素材を使うことで飲食店の売上が高まるとしたら、それを妨げることはしないでしょう。逆に健康的だけど原価が高い材料や素材を使って利益を圧迫するとしたら、それには反対するかもしれません。

一方で、「Steemit」で書いたトークンの世界は、利用者もトークンを通じて「ステークホルダー」になります。飲食店の例で言えば、利用者自身が健康被害が出るような意思決定には反発するはずで、関係者が全員ステークホルダーとなることで、みんなが同じ方向を向いた意思決定が促されるのです。会社におけるストックオプションがコミュニティや関係者全員が持ち合うと捉えるとイメージしやすいかもしれません。

これが『トークンエコノミー』が注目される理由のひとつであり、より良い社会の実現のための有力な手段になると考えられています。


9. 価値移転でついにネットが現実に勝る

インターネットによって情報の移転がなめらかになりました。

ブロックチェーンによって価値の移転もなめらかになってしまうでしょう。

いまやアメリカで起こった事件も日本にいながら瞬時に知ることができるし、日本のタレントのひとことがSNSを通じて拡散され、誰もが情報のやりとりがなめらかになっていきました。

私たちインターネット世代は、リアルな世界にも素晴らしい価値を認めつつも、世界中がその中でつながってしまうネット世界に魅せられてきました。ところが、いま思えば、インターネットだけでは足りない機能がひとつあったのです。デジタルデータがコピーし放題の世界において情報の価値がゼロに近づいてしまうことが示すように、ネットやデジタル上で「価値」を付加することが難しかったのです。

ところが、ブロックチェーンがその残りのピースを埋める存在として活用できることが分かってきました。ブロックチェーンは価値をデジタル上に確かに存在させ、かつ価値の移転をなめらかにします。いま、円やドルを筆頭とする金銭的価値は世界中でなめらかには移転していません。オンラインバイキングで口座にある日本円を遠い世界のブラジルのレアルに替えるとしたら、諸々手続きや手数料などがかかり、大きなボトルネックがあります。価値のなめらかさを道で例えると、日本とブラジルには『高速道路』はまだ開通していないのです。

トークンなどを活用することで、法定通貨を超える利便性やデメリットを解消して、しかも特定の国のレギュレーションにしばられることなく、共通のよりよい社会と価値移転の形を模索していけるようになります。

この『高速道路』は、ついに現実からインターネットの世界にブロックチェーン技術によって繋がり、価値がほとんど流通できなかったインターネットの世界に価値が流れ込んでいっています。まさにいまこの瞬間にひたすら現実からネットの世界に流れ込んでいっています。その流れの象徴が冒頭に書いた「イーサリアム」や「バイナンス」の台頭であり、「NFT」を活用したデジタル資産だったりします。VR世界の土地や建物も資産性を持ったり、VR美術館に”本物のデジタルアート”を飾って観覧手数料をトークンでもらったり、いずれネットの中の価値が現実を上回る時代がやってくる言われているのです。


10. 改正法案が2020年春施行、新時代幕開け

世界に先駆け、通称・仮想通貨法が成立した2016年当時、日本はブロックチェーン業界において世界の最先端を走っていました。その後、さまざまな事件が起こり、業界は自粛モードに突入しました。

しかし、2019年6月仮想通貨法の改正法案が衆参両議院で可決され、1年以内=2020年6月までの施行が確定しています。中身はすでに各所で公になっている通り、取引所の運営体制、AML(マネーロンダリング対策)などの厳格化で、「誰でもかんたんに使えた」状態より、少しハードルが上がる分、より安全なものになっていく見込みです。

第3の調達方法として歴史的な発明となった「ICO」は、誰でもかんたんに資金調達ができた分、詐欺プロジェクトが横行した経緯もあり、今後は信頼できる取引所を通じた「IEO」が法的に認めらえるようになります。

あらゆるプロジェクトやサービスの成長には資金が必要で、そのためのあらたな調達の手段が増えた時、それは日本人が手にする世界で戦うための最高の「刀」になるはずです。来年の新時代への期待が高まるばかりの今日このごろです。



以上なにかのお役に立てましたら幸いです。「お金」や「経済」の話が多めの記事でしたが、儲かる・儲からないということを伝えたいわけではなく、社会的インパクトをあらわすひとつの指標として用いています。ブロックチェーンがより良い社会の手段になることを願っています。

 

本業はTokyo Otaku Modeという会社で日本のオタク文化を世界に発信していたり、オタクコインという構想をお手伝いしたり、Tokyo Honyaku Questというサービスをリリースしたり、今度こんなイベントにも登壇します。Twitterアカウントはこちらです、よろしければフォローしてください!感想など@付きで送っていただけると励みになります。

 

長文を読んでくれてありがとうございます。まだ書ききれなかったことも多いのでまた次回お会いしましょう。