僕はこれまで個人や会社を通じて30近くのWebサービスを作ってきて、失敗したり、ちょこっとうまくいったりを繰り返してきました。最近では、Facebookページで700万人近いファンを抱えるTokyoOtakuModeというメディアの立ち上げ&運営を行ったりしています。
Webサービスの立ち上げというのは何度やっても面白いものです。小さなアイディアが、もしかしたら世界を変えるようなサービスに姿を変えることになるかも、と思うといてもたってもいられない、そんな気持ちが充満してきます。今回は、かつて僕が個人運営していたWebサービス「ゲームブログランキング」というサービスを立ち上げた話を書いてみたいと思います。
ゲームブログランキングはゲームタイトルごとに、どのブログの人気が高いかが分かるサイトです。ブログの人気度や面白さというのは、検索エンジンの順位では分かりづらいもので、検索結果の上から順番に探していっても、そういったブログを発見することは、いまなお難しいものです。エンジニアやWebデザイナーが読むようなWeb業界に特化したブログなどはソーシャルブックマークが浸透しているので、記事単位で面白いを見つけやすいですが、ゲームファンたちの中でソーシャルブックマークを使うユーザーは少なく、人気のブログを探すことはとても困難です。ゲームブログランキングは、その問題を解決するためのサービスとして作られました。サイトに設置されたランキングバナーのクリック数によって人気度を測定する、というWeb1.0時代の古い形式でしたが、これが意外なほど効果を発揮するのです。
さて、そんなゲームブログランキングというWebサービスを開発した後、どのようにしてユーザーを集めたかという話が、今回のエントリーで書きたかったことです。Webサービスを成長させるためのメカニズム、いわゆる「成長のエンジン」は何なのでしょうか。それを知るためには、もう少しサイトの仕組みを理解する必要があります。
ブログ運営者がランキングに参加するには、サイト側が用意したランキングバナーをユーザー自身のブログに設置しなくてはなりません。バナーのクリック回数に応じてランキングが決まるからです。これがブログランキングの肝であり、成長のエンジンのメカニズムなのです。クリック数でランキングを計測するためにバナーを設置してもらうことは、同時にそのブログの読者がバナーをクリックして、ブログランキングサイトに訪問してくれる導線を引いていることでもあります。リンクがランキングページに集中する構造になっているので、SEO的な観点からもナイスな仕組みです。もちろん、ブログ運営者にとっても、ランキングの上位になれば、アクセスを集めることができるというメリットがあります。また、自分のブログがランキングで評価されるというちょっとした承認欲求が満たされたり、「今日は何位になっているかな?」といったゲーム性も楽しみの1つとしてあります。
ブログランキングというサービスをもっと俯瞰して見てみると、ゲームブログに集まる読者のトラフィックを一旦ゲームブログランキングにまとめて、それを人気順に分配する仕組み、とも言えます。ブログランキングが素晴らしいのは、サービス設計の時点でこうした成長のエンジンのメカニズムが組み込まれていること。ランキングバナーの設置というアクションが、ブログランキングサイトの宣伝に繋がるわけです。つまり、ブログランキングの参加者を増やすことが、その成長を支えるエンジンとなるわけです。同じゲームで遊んでいるブログ運営者は、当然ながら、同じテーマのブログを読んでいるので、例えば、ドラゴンクエスト10のブログ運営者であれば、よく遊びに行くドラゴンクエスト10のブログに同じランキングバナーが設置されていたら、自分も仲間としてその輪の中に入りたくなる心理も働きます。
しかし、仕組みがいくら素晴らしくても、それだけではユーザーは大きく増えていきません。
当時、僕がこのブログランキングのKPI(当時はこのワードは使わなかったけど)にしたのは、ブログのアクティブの登録者数を増やすことでした。ここで注意してほしいのは、「ランキングを見にくるユーザーを増やす」ではなく、「ブログランキングの参加者を増やす」という点です。ゲームブログランキングのゴールはサイト全体の訪問者を増やすことでしたが、当面の目標や施策を「ブログランキングの参加者を増やす」ことに注力したのです。これは小さな違いのようで、具体的な施策に落としこむと大きな違いが生まれるので、超重要なポイントだったりします。
そもそもブログランキングを開始した直後は参加者がいないので、ランキングとして機能しない→ランキング自体に価値がない→訪問者が求めている価値あるブログが見つからない、という、良くない流れになってしまいます。そこで、ブログランキングの参加者を増やすことから始めることで、参加ブログが増える→価値あるブログがランキング化される→ランキング見たさに訪問者が増える→訪問者の中からブログランキングの参加者が増える、という好循環のスパイラルを生み出すことができるのです。もし、最初にランキングを見にくるユーザーを増やす施策から行なっていたとしたら、それは施策の順番が逆なのです。
さて、「ブログランキングの参加者を増やす」としたときに、具体的にどのような施策をすればよいでしょうか。当時、どういうことを考え、どういう施策をしていたかというと、実はとてもシンプルな施策を地道に続けていました。
サイトができてすぐは、当然のことながら、無名かつ信用もありません。いってみれば、ただっぴろい太平洋に突然ちっさな無人島がひょっこり出現したくらいなものです。当然、地図にも載っていないので訪問者は誰もいない状態。自然に参加者が増えることなんてこともありません。そんな無人島に人を連れてくるにはどうしたらよいか、ひたすら考えました。結論はひたすらブログ運営者にコンタクトを取って遊びに来ませんか?とメールすること。1通1通文面を考えて1日100通、365日毎日続けたのでした。参加者が増えると、各ブログでランキングバナーが表示されるので、アクセスが伸びていきます。結果、アクティブで15,000を超えるブログ参加者を集めて、ゲームに特化したブログランキングサイトとしては確固たる地位を確立できたのでした。
こうしたWebサービス運営の裏側(あるいは白鳥が水面下で足をバタバタしている的な話)はWebサービスの成功要因の1つとして、あまり語られることはないのですが、こうした泥臭いタスクまで実行できるかどうかが、成否を決めるカギだったりするのではないかと個人的には思います。
これは一例で、最近ではFacebookやTwitterと連動することで、もっとスマートに口コミを発生させることができます。ただ、ここで伝えたかったのは、こうした施策を行なった背景にある想いのほうです。たいていの人は「なぜそこまで?」と思うかもしれません。しかし、自分のサービスを世の中で広めたいという情熱があれば、体が勝手に動くものなのです。ゲームブログランキングは、個人的にヘビーゲーマーであったこと、自分が遊んでいたゲームの面白いブログを見たかったこと、これをみんなに使ってもらったら絶対に「ゲームで遊んでいるユーザーがよりゲームが楽しくなる」という確信があったことから、ゲームファンが遊んでいる世界の中にこのサービスを広めたいと強く思っていました。
最近、友人から教えてもらったQuoraで行なわれていたQ&Aも、こうした泥臭さを体現した成功例の1つとして非常に参考になるものだと思うので、ここで紹介したいと思います。「Udemyはどうやって11,000のオンラインコースを素早く獲得したのか」という質問に対して、Udemyの前社長であるGagan Biyaniによる回答を和訳したものです。Udemyはオンライン授業を開設できるプラットフォームです。
2012年の5月までの3年(2年はポストローンチ)、とりわけ僕は”インストラクター獲得”担当(基本的に山ほどのコースをUdemyプラットホームにあげる、ということ。)僕は未だにインストラクターチームのアドバイザーである。
Udemyは基本的にはBlogger、WordPress や YouTubeに似ている。僕らは11,000コースを保有しているけれども、90%は有機的に作られたものだ(誰かが僕たちのことを聞き、コースを後から作ったということ)。しかしながら、僕らにも誇りをもてるコンテンツ獲得のプロセスがある。ほかのたくさんのビジネスもここから学ぶことはあると思うので、以下、Udemyの最初の1,000コースにまつわる話だ。
1) 最初の50~150のコース獲得
Udemyを始めるにあたって一番大変だったのは、始める前にUdemyには1つもコンテンツがなかったということ。まず僕は本の著者や、教授や有名な講演者にコースをつくってもらえるよう説得を試みたが、オンラインコースのフォーマットは彼らにとってなじみがなかった。彼らはただ本を書いたり、講演をし続けたかったりしただけだった。困難だったのは彼らにUdemyを使ってもらうことではなく、オンラインのコースで教えるということだった。この3年間本当に大変なものだった。
最終的に、co-founderの Eren Bal が新しいプランを考案してくれた。インターネット上にはOpenCourseWareムーブメントの一端として、たくさんのクリエイティブ・コモンズ認可のコースがある。僕らは合法的にそれらのビデオを得て、(法律を理解するために、たくさんの大学の担当者と話したりもした。)Udemyに掲載した。これが僕らの最初の数百のコースで、現在、”Stanford”、”MIT”、”Yale” などと検索することにより、それらのビデオを見つけることができる。僕らはそれからTechCrunch、Mashableや他のブログでローンチし、約10,000のユーザーを獲得した。Udemyのコンテンツ獲得目的のコースは、ユーザーにとってとても価値のあるものだと気付いた。しかし、そのユーザーたちが大きなビジネスを僕らに生んでくれないということももちろん知っていた。
2) 初期のサクセスストーリー
ステップ1によりある程度の社会的立場とイニシャルユーザーの基盤を得て、$100万ドルのシードラウンドを確立した。僕らはそのお金を自分たちがファウンダーとして継続できるために使ったが、新しい従業員はステップ3まで一人も雇わなかった。クリエイティブ・コモンズ認可のコンテンツが途切れると、何も新たに提供するものがなかったため、ステップ1は僕らのインストラクター基盤をさらにスケールするまでには至らなかった。次のステップは経験のある教師や専門家を積極的なインストラクターになってくれるよう説得することだった。
最初の積極的なインストラクターを得るのは本当に大変だった。僕はスカイプコールでいろんな人(本の著者、起業家、プロのポーカープレーヤー、自分のことを魔女という黒魔術を学んだ人たちとさえ)と毎日何時間も費やした。そのうち何人かの人たちはいくつかコースをつくってくれたけれども、基本的には使い物にはならなかった。カスタマーディベロップメントの拡張版でしかなかった。
最終的に僕らは"Raising Capital for Startups"というイベントシリーズで話すために、僕らに投資してくれた投資家の人たちを納得させることができた。カメラを部屋の後ろに立て、部屋を70人以上のシリコンバレーやVoilaのスタートアップの人々で埋めた。最初の”アクティブ”コースを持ち、それからもう2つのコースを同じフォーマット(雇用とマーケティング)でつくり、できる限りそれらのコースのプロモーションに努めた。それらのコースは大成功で、$30-50,000を売り上げた。これによりステップ3に進むことができた。
3) インストラクターの成長
僕らが手動で好結果のコースを作った後、そもそものコースを教えることの価値を証明した。僕らはそれからプログラミング、技術的な事や起業家精神等の専門家を訪ね、コースを教えてくれるよう説得した。この人々は僕らが6ヶ月前に話した人たちと同じ人たちだが、今回僕らはUdemyで成功可能ということを証明できていた。そのおかげで、さらに2人のインストラクターに参加してもらえることになった(Zed Shaw とBess Ho)。彼らは以前のインストラクターより成功している人たちで、(そのおかげで)さらに5-10人のインストラクターがその夏に参加することになった。
いくつかのサクセスストーリーを抱え、僕らはそれからどのようにスケールしたのだろう?ここから90%以上の僕らのコースがつくられることになる(瞬く間に広まった)。人々はUdemyの価値に気付き始め、明らかに参加したがっていた。
しかしながら、僕らはまだ”content acquisition(コンテンツ獲得)”というもっと直接的に関わっていけるチームをUdemyで立ち上げることになる。このチームはもっとビジネスよりということを除けば、Growth(成長)チームみたいな感じだった。このチームはバーチャルアシスタント(VA)とフルタイム従業員から成り、プロセス管理や1対1の注目を集めるインストラクターとのやり取りに従事した。以下はワークフローの例だ(Pythonプログラミングコースの獲得)。
VA 1 がPythonプログラミングの優秀な専門家を検索する。VA 1 がEメールアドレスを取得しUdemyを代表して彼らにメールする
何人かの専門家から返信が来る
Udemy チームメンバーが電話/skype/e-mailをし、インストラクターがUdemyについての理解を深められるよう手助けをし、質問に答えたりする
理解の深まったインストラクターが次の2週間から3ヶ月の間にコースを開設する
これがコースの源で僕らはいまだにこの流れで作業している
一年後、Bess Hoのコースが始まり、僕らは上位の10インストラクターが$1.6 million 以上のセールスをあげたと公表した。(これは5月だったので、もちろん今は断然多い。)これがさらなるコース作りにいい影響を及ぼした。
マーケットプレイスビジネスにおける教訓
・まず供給する。ユーザーがいない段階で、早い段階で適応してくれる人たちを確保するのは非常に難しい
・どんな方法でもいいから最初のサクセスストーリーをつくる。ただしあまりたくさんのことには手を伸ばさないこと。1つか2つで十分
・よりたくさんの人にどうやったら自分たちの成功をプロモーションできるかを見出す。君は大忙しになる
・もしここまで辿りつくことができれば、君はもう次に何をすればいいか分かっているはず
翻訳:Sho
ここまで真摯な姿勢で回答をしていることにも驚きですが、それ以上に、成功への道のりをここまで具体的に共有する姿勢にはもっと驚かされます。さらっと書いているので見逃しそうになりますが、Webサービスの立ち上げの苦労や試行錯誤が見て取れると思います。Webサービスはサイトを作ってからが本当の勝負の始まりなのです。
ゲームブログランキングの立ち上げの時には、日本で、いや、世界でこんな愚直なことをやっている人は僕だけじゃないのか、だからきっとうまくいくと言い聞かせながら、気力で続けていた記憶があります。もっと深い部分では、「やるからには全力で、どうせ一度の人生だし。」「過ぎた時間は戻ってこないのだから、いま頑張るのだ。」というような、こっ恥ずかしくて人と面と向かってはなかなか言えないような信条もあります。
サービスの立ち上げでうまくいったケースとうまくいかなかったケースにどんな違いがあったかを思い返してみると、どこまで愚直に粘れたかだけだった気もします。どこまで自分のサービスを信じることができて、それを広めたいと思ったかという強い想いが大事だと思うのです。Webサービスを立ち上げると、起こってほしくないハプニングが毎日のように起こるし、新しい施策がうまくいくケースなんてほとんどありません。その中で光明を見出して、しがみついて、成功の光の穴を広げていくような毎日が続きます。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のような世界をイメージするとちょっと暗すぎるかもしれませんが、そんな中で上へ登ることができる蜘蛛の糸が降りてきて、スルスルと登れた時の快感がたまらなくてやめられなくなります。
ここ数年はWebサービスの制作が昔にくらべて簡単になってきたということもあり、本格的なエンジニアでない人でも、アイディアとやる気さえあれば、新しいWebサービスを生み出すことができるようになってきました。学生でもWebサービスをネタにスタートアップを立ち上げたり、社会人でも仕事が終わった平日の夜や休日に自分のアイディアを形にしようと精力的に活動している人も増えています。僕もブログを書くようになってから、そうした人たちから連絡が来たりして、相談に乗ったり、一緒に何かを作ったりと面白い取り組みをしてきました。TokyoOtakuModeもそんな中から生まれて、立ち上がったプロジェクトの1つです。
いまの社会を考えると、たとえ大企業に就職できても、一生安泰という保証が全くないし、自分でスキルを磨いて努力することは、とても良いことだと思います。仮にその試みがうまくいかなかったとしても、その過程で得た知識や人脈は蓄積されていき、次の取り組みにつながっていくからです。学生起業が増えているのは、そうした状況を敏感に感じ取っている人たちだったり、閉塞感を打破するような動きの1つなのだろうなと思います。実際に、相談に来る学生たちを見ていると、荒削りだけど信じられないほどパワフルです。また、僕が見ている限り、大企業に入ってその中でも活躍している人というのは、会社の枠組みを超えて、さまざまな活動を行ない、知識や人脈を会社にフィードバックしている人であるように見えます。
僕自身は20歳を過ぎてオンラインゲームの世界の中に5年以上住んでいたり、ゲームをやりすぎてゲーム攻略本を仕事にするような人間ですし、偉そうに語る立場ではないのですが、仕事でも遊びでも、ようは全身全霊でなにかに取り組むことができるかどうかということが、なにをやる上でも大事だと信じています。このブログを読んで、ちょっとでもその想いが伝わったら、やろうとしていたことの最初の一歩でも踏みだせたら、嬉しく思います。
募集しています
いま、僕がこのエントリーで書いた内容と同じような気持ちで取り組んでいるサービスが、日本のアニメ/漫画/ゲームなどのオタク文化を世界に発信するメディア「TokyoOtakuMode」です。(詳しくは日経の記事をご覧ください)かつて世界を席巻した製造業が瀕死の日本において、いま日本が世界に誇れるものは、こうしたオタク文化だと強く思います。10年、20年後の日本を想像すると、世界に通用する文化を支えるTokyoOtakuModeは僕らの次の世代に意味ある活動になるんじゃないかと思ってたりします。
TokyoOtakuModeはまだまだこれからのサービスで、うまくいくかどうかはこれからにかかっています。まさにいま立ち上げを行なっている最中です。
学生や社会人の方でも、もし僕やTokyoOtakuModeに興味があったら、あるいは起業やWebサービスの立ち上げに興味があったら、一度お話ししませんか?エンジニア、デザイナー、ライター、編集者、営業さんなど、幅広く人を募集しています。 hajimeataka[a]gmail.com までプロフィールを送ってください。